今回のカフェ・ミナプルでは、設計事務所「BoYoSTUDIO」を主宰する山下さんが登壇し、「建築から街を読み解く」をテーマに自身の設計理念や具体的なプロジェクトについて語りました。室蘭での原体験から始まる建築への想いや、周辺環境と調和する設計アプローチが、住宅や店舗の事例を通して紹介されました。さらに、登別石を活用した石窯の建設計画や、カルルス温泉の新たな魅力を引き出すイベント企画など、建築を軸とした地域活性化への多彩な提案がなされました。
開催内容
テーマ 建築から町を読み解く
講 師 山下 尚哉(株式会社BoYoSTUDIO 代表)
聞き手 白川 勝信(登別市観光交流センターヌプㇽ 学芸員)
参加者 36名(内、オンライン15名)
おかし 自然栽培の食用ほおずきとミニトマト(はるかな畑)
設計理念と背景
山下さんはまず、自身の経歴と設計理念の原点について語りました。室蘭で生まれ育ち、幼い頃から架空の地図や設計図を描くことに熱中していた経験が、現在の「地域に馴染んだ建築」というテーマに繋がっていると説明。札幌の設計事務所での勤務を経て独立し、望洋スタジオを設立した背景にも触れ、一貫して地域との関係性を重視する姿勢を示しました。
設計事例にみる空間づくりの工夫
続いて、具体的な設計事例をもとに、空間づくりのアプローチが紹介されました。若草町で設計した住宅では、建物を斜めに配置することで庭との境界を曖昧にし、室内に豊かな光と開放感をもたらす効果を解説。また、洞爺湖近くの和食店では、藍染を施した杉板で壁面に奥行き感を与えたり、天井の色や段差を利用して空間を巧みに演出したりと、素材や視覚効果を活かした設計の妙が語られました。
登別の資源を活かしたプロジェクト
現在進行中のプロジェクトとして、登別温泉のピザ店「アストラ」のリニューアル設計や、登別石の魅力を活かした石窯の建設計画が報告されました。特に石窯プロジェクトでは、地元の石材業者と連携しながら、素材の魅力を最大限に引き出すデザインプロセスや、建築許可取得における課題など、実現に向けた具体的な道のりが共有されました。コンセプトの確立から法令・技術要件のクリアまで、実践的な設計の進め方が強調されました。
まちづくりへの新たな提案
講演の後半では、建築設計の枠を超えた、まちづくりへの提案がなされました。カルルス温泉の静かな魅力を活かしつつ、来訪者の滞在時間を延ばす施策として、公園や橋のほとりに椅子を置いてくつろぐ「チェアリング」をカルルス文化祭の中で企画。さらに、地域全体を一つの宿と見立てる「街宿(まちやど)」のコンセプトを登別駅前エリアで展開する構想も示され、地域に新たな人の流れを生み出すアイデアが語られました。
建築とコミュニティに関する質疑
最後の質疑応答では、「建築家に不可欠なスキルは何か」という問いが投げかけられました。山下さんは、「クライアントの表面的な要望の奥にある、本質的な欲求を読み解くこと」の重要性を強調。たとえば「対面キッチンが欲しい」という要望の裏にある「家族との繋がりを大切にしたい」という感情を汲み取り、空間全体でその想いを実現することが建築家の役割だと述べ、講演を締めくくりました。




イベント概要
日時 2025年8月27日(水)18:30〜
会場 登別市観光交流センターヌプㇽ
主催 登別市観光交流センターヌプㇽ 友の会 ミナプル
協力 登別国際観光コンベンション協会