今回のカフェ・ミナプルでは、日本湿地学会会長で札幌市立大学名誉教授の矢部 和夫さんを講師にお招きし、「類い希な登別の自然 ─ キウシト湿原はなぜ重要か」をテーマにお話しいただきました。講演では、キウシト湿原が北海道の絶滅危惧種を含む希少植物の宝庫であることが解説され、その背景にある日本の湿原の特異性や、ミズゴケが創り出す生態系について専門的な知見が共有されました。さらに、気候の違いが湿原の景観に与える影響や、貴重な自然を未来に繋ぐための保全と活用のあり方についても語られました。
開催内容
テーマ 類い希な登別の自然 ─ キウシト湿原はなぜ重要か
講 師 矢部 和夫(日本湿地学会 会長/札幌市立大学 名誉教授)
聞き手 白川 勝信(登別市観光交流センターヌプㇽ 学芸員)
参加者 18名(内、オンライン5名)
おかし かっぱえびせん「匠海」
キウシト湿原の価値と日本の湿原の特異性
矢部さんはまず、わずか4ヘクタールほどのキウシト湿原に、なぜ多くの希少な植物が生育しているのか、その理由を解き明かしました。日本の湿原は、欧米で一般的な石灰岩地質ではなく、火山性地質の影響を強く受けているため、水質や栄養環境が独特であり、世界的にも珍しいタイプの湿原(中程度のリッチフェン)が形成されると説明。この特異な環境こそが、キウシト湿原の生物多様性を支える基盤となっていることを強調しました。
ミズゴケが創り出す湿原の生態系
続いて、湿原生態系の主役である「ミズゴケ」の役割について詳しい解説が行われました。ミズゴケは、自ら周囲の環境を酸性に変えることで他の植物の生育を抑制し、自身の生存に有利な環境を創り出します。また、寒冷な気候と相まって、枯れた植物が完全には分解されずに「泥炭(ピート)」として厚く堆積していくプロセスが、湿原の成り立ちの鍵であることが示されました。こんもりと盛り上がった「ハンモック」と呼ばれるミズゴケの塊の構造についても紹介されました。
気候の違いが生む多様な湿原の景観
講演では、同じ北海道内でも日本海側と太平洋側とで湿原の景観が異なるという、興味深い研究結果が報告されました。太平洋側では夏に海霧が多く発生し湿度が高く保たれるため、ミズゴケのハンモックが高く成長するのに対し、比較的乾燥する日本海側では背の低いハンモックが形成されるとのこと。積雪が植物の成長を抑制する一方で、保湿や凍結防止の役割も担っていることなど、気候と生態系との密接な関係が語られました。
貴重な自然の保全と未来への活用
最後に、矢部さんは湿原生態系の脆弱性に触れ、その保全の重要性を訴えました。そして、ただ保護するだけでなく、「アドベンチャーツーリズム」のように、地域の自然の価値を正しく伝え、体験してもらうことで収益を生み、それを保全活動に還元していくという、持続可能な関わり方を提案して、講演は締めくくられました。




イベント概要
日時 2025年9月12日(金)18:30〜
会場 登別市観光交流センターヌプㇽ
主催 登別市観光交流センターヌプㇽ 友の会 ミナプル
協力 登別国際観光コンベンション協会
特別協力 NPO法人 キウシト湿原・登別